今の飛行機は,型式証明を取得する要件として,「非常設備」 として,「90 秒以内に飛行機から地上に脱出すること」,が規定されています。
一方で,「安全に」とか「怪我なく」とかは明示的な要件になっていないとすれば,有り体に言えば,「90秒以内の脱出」,すなわち,何かあったら90秒以内に乗客員全員を脱出させることが最優先であり,少々のけが人が発生することは想定の範囲内だ,というのが実態ではないかと思われます。
そういう意味では,今回の羽田空港でのKAL機からの緊急脱出の際,90秒以内に乗客員全員が脱出できたのであれば十分,そこがきっちりおさえられていれば,合格,ということになりますが,緊急時,90秒で脱出できるかどうか,むしろ,そちらの方が問題です。
たとえば,筆者も,たまに非常口座席にあたることがありますが,その際,CAさんからは,この席に座った人には云々と,説明を頂きますし,座ったあと,自分でも注意書きを読んで,一応,「覚悟」は決めます。
ただ,なかばパニック状態の乗客を,たまたまそこに座った乗客がコントロールできるのでしょうか。さっさと自分が出てしまうことは論外としても,「客室乗務員が非常口を完全に開放するまでの間,他の乗客を制止」するとか,「機外の安全を確認して,非常口ドアを操作して開放」するとか,「脱出口下で後から脱出する乗客を援助」するとか,実際に訓練したこともありませんし,たまたま飛行機の乗客として乗った人が,果たして,「お願いしますね」といわれただけでまともに実行できるのか,非常に疑問です。
つまり,CAさんの指示誘導はともかく,そもそも「非常口座席」に座った乗客による指示・誘導など期待できないでしょうし,仮に,指示・誘導を行って頂けたとしても,他の乗客さんが言うことを素直に聞いてくれるとは限らないのが,いささか気になるところです。
そういえば,2月にも,確か,新千歳空港でJAL機から緊急脱出騒ぎがあって,その際,明らかに,手荷物を持ってシューターを降りてくる乗客や,機体のそばで,写メをとって何事かをしている乗客がテレビに映っていました。緊急時は,一切の手荷物を持たずに避難してください,降りたら機体から急いで離れてください,等々毎回機内アナウンスがありますが,そういう乗客の席には機内アナウンスがとどかないのか,例によって,「指示もアナウンスもなかった。」「説明が無かった」と,あくまで航空会社の責任です。
重大インシデントというなら,そういう乗客と乗り合わせたことの方が,よっぽど重大インシデントですし,怖いです。