地方で仕事をしていますと都会では味わえない苦労もあります。

その最たるものが,やはり,狭い社会に起因するもろもろの苦労ですが,たとえば,事件 ―― 弁護士の扱う事件は,基本的には,もめごと,紛争の類ですが ―― の当事者が地元の場合,実際に相手方当事者に遭遇することとなる可能性は,都会に比べてはるかに高まります。

極端な話,自分がよく行くお店の店主や従業員さん,とか,病院の先生とか看護師さん,宅配便のドライバーさんとか,が事件の相手方でした,とか,自分の依頼者でした,ということはそれほど不思議なことではない,ということになります。そうしますと,普通の感性では,なかなかそういうところには足が向かないことになってしまいます。必然的に,地元での活動範囲が狭くなってしまうのは,一種の宿命です。 あるいは,どうしても,ある程度,事件の範囲を絞ってかからざるをえません。極端な話,行きつけの飲み屋のご亭主相手の紛争は,いくら頼まれても,引き受けるわけにはいきません。もちろん,利益相反になる場合は弁護士倫理の問題がありますが,利益相反,とまではならないにしろ,やりにくい場合には,受任は躊躇します。

それと,もう一つ,困ったことがあります。都会では弁護士の存在は珍しくも何ともありませんし,新しい人が引っ越してくる,ということも日常茶飯事です。ところが,こういう土地ですと,事情は正反対であるわけで,相当程度「目立つ」ことになり ―― おかげて助かっている部分もありますが ―― ,プライバシーはあまり期待できませんし,道ですれ違っても,向こうはこちらをご存知ですが,こちらは,まったく認識がない,ということもしばしばです。突然,あいさつされますと,当初は戸惑いましたが,最近はそういうものだということがわかってきましたので,基本的には,「こんにちは。お世話様です。」と丁重にご挨拶を返しておけば,特に問題にはなりませんが,政治家の苦労も,よくわかるようになります。

ただ,そもそももめごと,紛争が仕事ですから,いつどこで人様の恨みを買っているか,わかりません。依頼を受けた方に対して精一杯お世話をするのがわれわれの仕事ですので,相手方からすれば,「それが弁護士さんの仕事ですから。」とご納得いただける方はまれで,むしろ,自分に害を及ぼす魔物のような目で見られることもあります。 「まあまあ,そこはお互いさま,穏便に。」でことがすめば弁護士はいりません。地方といわれる地域で器用に世渡りをしていくには,なかなか難しい職業です。