お世話になっております。職業奉仕委員長の古井でございます。今月は職業奉仕月間,ということで,ロータリーの「職業奉仕」について,少し,お話したいと思います。 職業奉仕の理念は He profits most who serves best. 最もよく奉仕する者,最も多く報いられるという内容で表されています。これは,アーサー・フレデリック・シェルドンが提唱したもので,職業奉仕はその考え方をそっくりそのままロータリーが受け入れており,他の奉仕団体とは異なった独特の奉仕理念であると言われています。 職業人が自らの事業の継続的発展を願うことは当然であり,企業経営によって利益を得ることは何らやましいことではありません。
ただ,「利益を得る」ことが事業の目的なのか,事業の結果なのか,事業というものをどう考えるかによって,その意味するところは大きく異なってきます。たとえば,利益になるからと言って,違法な行為を行ったり,反道徳的な行為を行ったりしても,一時は儲けになるかも知れませんが,そうした事業のやり方は,決して長続きしません。
すなわち,職業奉仕とは,同時に,高い職業倫理感を求められることを意味します。シェルドンは,事業を継続的に発展させるための企業経営の理念と実践方法を,ロータリーの職業奉仕の理念とこれと表裏をなす高い職業倫理感として提唱したと考えられております。
ロータリアンの職業は,利益を得るための手段ではなく,その職業を通じて社会に奉仕するために存在するのであり,儲けを優先しようとして事業を営むことが,事業に失敗する最大の原因である,というように言われています。
職業奉仕とは,合理的で適正な企業経営方法のことであり,シェルドンの職業奉仕理念に則って企業経営を実践すれば,継続的に最高の利益が得られる,そうした考え方のエッセンスが,まさに,He profits most who serves best.という言葉の中に,凝縮されています。
職業奉仕の実践は顧客の満足度を最優先した事業経営のあり方ですので,必然的に,高い職業倫理が求められます。そして,高い職業倫理観に基づいて地域社会の人に奉仕する,そういう考え方で企業運営を行えば,結果として,最高の利益が得られる,これがロータリーの職業奉仕理念といえます。
ところで,会社法(昔の商法)の時間,法学部の学生は,「会社とは誰の者か」という問いに対して,「会社の所有者は株主です」という内容のことをたたき込まれます。厳密に言えば,「株主」とは「株式」の所有者であり,「株式」とは,会社の所有者たる地位が,均一な細分化された割合的単位をとったもの,と教えられます。経営学的にも,会社は株主のものであるという考え方は,ごく普通の考え方です。そこで,会社経営者は,株主の委任を受けて,株主の利益を最大化するために,善管注意義務を負って働くことが期待されており,もし,株主の期待通りの働きがなければ,簡単にクビになります。
会社は株主のもの,利益(株価)至上主義,この考え方は,もちろん,近代的な会社経営とその基盤である近代資本主義の基礎をなす考え方ですが,その考え方の行き着く先は,どうだったでしょうか。アメリカの話ですが,テキサス州に本社を置く総合エネルギー企業が不正なガスと電力取引によって巨大な利益を上げましたが,結局,不正な株価操作と粉飾決算が内供告発によって表面化することなり,結局,投資家さえも裏切ることとなってしまいました。日本ではというと,時の人ともてはやされた青年実業家が,人為的な株価のコントロールや粉飾決算で実刑を受けたり,あるいは,投資家が某放送局の株の買い占めに際してのインサイダー取引容疑で検挙されたり,と,社員や従業員,地域社会という視点を欠いたこれら経済活動は,結局,職業倫理とも無縁な,長い目で見れば,世の中の支持を受けられない,つまり,profitにもならないし株主のためにもならない,虚業の好例といえます。
一方で,日本的経営感覚 ―― もしかすると,古きよき日本的経営のあり方,になってしまったのかも知れませんが ―― では,むしろ,会社は事業を通じて社員や消費者,地域社会に貢献するものである,というのが一般的ではないでしょうか。すなわち,会社は,社員や顧客,地域社会のために存在する,株主は,会社に必要な事業資金を提供するのであって,社員や顧客が満足すれば,結果として,利益が上がり,株主も配当やキャピタルゲインというかたちで恩恵を受けることになります。
ロータリーの職業奉仕観(理念)も,だいたい,これと同じような考え方です。 話がそれましたが,職業奉仕の原点は職業を通じた社会への奉仕にあり。このことは,有名なピーター・ドラッカーが,企業の目的は,顧客を創造することである,企業とは何かを決めるのは顧客であり,「『われわれは何を売りたいか』ではなく,『顧客は何を買いたいか』を問う。『われわれの製品やサービスにできることはこれである』ではなく,『顧客が価値ありとし,必要とし,求めている満足がこれである』と言う」のが真のマーケティングであり,企業の目的は顧客の欲求の満足である,というドラッカーの哲学とも共通するところがあるように思われます。
そして,同時に,社会への奉仕は,同時に,高い企業倫理をも求められることになります。なぜなら,高い企業倫理観を持つ企業の提供する製品やサービスに高い満足を覚え,すすんでその対価を支払おうとするものであるからです(逆に言えば,いかがわしい会社の製品は買わない,消費者の目は,職業倫理に非常に厳しくなっています。)。
そして,ロータリーでは,その高い企業倫理,について,ロータリーの哲学を端的に表現し,職業奉仕の理念の実行に役立つものとして,四つのテストを提唱しています。そして,第2項(”fair”これは,公平ではなく,公正,と訳すべきところだと思います。)と第3項(”Goodwill”これも,善意,とか,親善の意味です。),第4項(”beneficial”は,ためになる,では何かぴんときませんが,有益な,というニュアンスです。)を見ますと,これぞまさに,職業奉仕の精神,企業倫理のエッセンスと言えます。
Of the things we think, say or do
1) Is it the TRUTH?
2) Is it FAIR to all concerned?
3) Will it build GOODWILL and BETTER FRIENDSHIPS?
4) Will it be BENEFICIAL to all concerned?