平成24年の中小企業白書を見ると,中小企業の経営課題として認識されているもののうち,「営業力・販売力の強化」と回答している割合が7割を超えて最も高く,次に回答割合の高いものが「人材の確保・育成」で,中小企業の経営課題の中でも,特に重要なのが販路開拓であることが浮き彫りになっています。
一方で,中小企業庁が2010年11月に企業30,675社を対象に実施したアンケート調査「経営環境実態調査」によれば,中小企業が今まで効果があったと考える中小企業支援施策を見ると,当面の資金繰りや雇用維持,人材確保に関する支援が上位にあり,販路開拓に関する支援の位置付けは低位にあることがわかります。つまり,多様な経営問題の中でも,中小企業にとって,喫緊の課題は,やはり当面の資金繰りや雇用維持等であり,販路開拓といった中長期的に取り組まなくてはならない問題は,必ずしも十分な効果が上がっていない傾向が見られます。
しかし,経営問題は多様であり,当面の問題は当面の問題として,中長期的に取り組むべき問題に対しても着実に取り組まなくては長期的な成長戦略を描くことはできません。
経営課題の解決には,まず,経営者自身が現状を正確に把握することから始まり,そこから明らかになった自社の経営課題に対し,有効な対策を講じることが必要ですが,中小企業経営者共通の悩みは,実は,社内外にそうした問題を常日頃から相談できる適切な人物がいない,ということです。中小企業庁の委託により、(株)野村総合研究所が2011年12月に、中小企業19,437社を対象に実施したアンケート調査「中小企業の経営者の事業判断に関する実態調査」によりますと,中小企業の経営相談の状況は,中小企業経営者の3割強が,定期的な経営相談をしていると回答しているうち,具体的な相談相手は,約7割が「顧問税理士・会計士」,約3割が「経営陣」,3割弱が「家族・親族(利害関係者)」,2割弱が「メインバンク」となっており,日頃から接点の多い,社内外の関係者等が相談相手として選ばれる傾向にあります。つまり,中小企業経営者の実に7割が適切な相談相手を持たず,経営相談ができる環境にある経営者でも,相談相手は,日頃から接点の多い社内外の関係者に限られている,というのが現状です。
確かに,こうした「日頃の接点」には,気軽に聞ける,聞きやすい,話を分かってくれる,等というメリットがあります。経営者としては,そういう身近な存在と相談することで,将来の経営方針について安心を得ることができるのは,精神衛生上,きわめて重要です。しかし,社長の精神衛生だけを考えればいいのであれば会社経営も簡単ですが,それほど事態は単純ではありません。時として,客観的な立場から,クールな眼で,やかましいことも言わなければならない,それが相談を受けたものの使命であり,責任であるわけで,「身近な存在」は,そうしたクールな眼(他人目線)を欠き,正確な現状把握や合理的かつ有効な経営判断という,経営相談に求められる根本的な機能が忘れ去られてしまう可能性が高いと言えます。
われわれのような助言者の立場にある者は,正直,過去に全く接点のなかった企業というのはなかなか状況把握も難しいところではあるのですが,オーナーになかなかものが言えないほど人的関係が密であったり,あるいは,日常的に会社の帳簿や懐具合に接している立場にありますと,「他人目線」ではなく,「自分目線」になったりしてしまう,そうした危険と常に隣り合わせにいます。
同じく24年版中小企業白書によりますと,従業員規模の大きい中小企業ほど,定期的な経営相談を行っている割合が高く,また,従業員規模の大きい企業ほど,経営相談により受ける助言が役に立っていると回答する割合が,高い傾向にあることがわかります。特に,従業員が0~4人の零細企業では,経営相談をしている企業でも,4割強が有効性を見いだせていない状況であり,定期的な経営相談をしている中小企業は,経営相談をしていない中小企業より,増益傾向と回答する割合が高く,減益傾向と回答する割合が低いことが示されています。
人材や資金の豊富な大企業と異なり,こられ経営資源に限りのある中小企業にとっては,社内外の関係者等から定期的に助言を受けることが,安定した事業の継続に有効です。特に,従業員規模の小さい企業については,将来の安定した事業継続のためにも,自社の経営状況や方針について,定期的に,外部の眼による助言を受けることが望ましいと言えます。