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就業規則を見て欲しい,というご相談をうけることがあります。基本的には出来合いののものをお使いになっているケースがほとんどですので,大してコメントすべきところはないのが普通ですが,たいていのケースで考慮されていないのが,本稿のテーマ,「営業秘密」の管理です。
会社が秘密として守るべき,顧客名簿,仕入先リスト,製造技術,実験データ,設計図などの,いわゆる「営業秘密」は,不正競争防止法によって守られています。不正競争防止法の下で,たとえば,①会社の機密情報を盗み出し,ライバル会社等に売却する,とか,②営業秘密を盗み出した従業員から,盗み出されたものであることを知りながらライバル企業等が譲り受ける場合,③営業秘密を取得した後に,不正取得されたものであることを知って,あるいは,重過失により知らないで,その営業秘密を使用したりライバル企業等に売却したり,④会社から営業秘密を開示された従業員が,不正の競業その他の不正の利益を得る目的で,その営業秘密を使用したり,ライバル企業等に売却するような場合,民事上の差止請求や損害賠償請求,信用回復措置請求権の対象となり,営業秘密の不正使用等の侵害行為について,刑事罰(10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金)か科せられるほか,両罰規定により法人に対しても3億円以下の罰金が科せられます。
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ところで,「営業秘密」について,不正競争防止法は,「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう」と定義しています。つまり,不競法によって保護されるためには,「秘密として管理されている」ことが要件の一つとされていますので,
いかに重要な情報であっても,その情報が秘密として適切に管理されていなければ,営業秘密としての法的な保護を受けることは出来ません。
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経済産業省が平成15年に公表した「営業秘密管理方針」(平成17年,22年に改訂)において,事業者の実態を踏まえた合理性のある秘密管理方法を提示するという観点から、営業秘密としての法的保護を受けることができる管理水準と、情報漏えいのリスクを最小化するための高度な管理水準に分けて、それぞれ具体的な管理方法が提示されているほか,特に前者について、企業規模や組織形態、情報の性質等に応じた合理性のある秘密管理手法が実施されていれば足りるとされています。
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また,中小企業等が営業秘密の管理について自己診断を行うことを可能とするチェックシートや,秘密保持誓約書や共同研究開発契約書など、中小企業等が技術ノウハウなどの営業秘密を扱う際に活用できる各種契約書の参考例,情報管理に関する各種ガイドライン等とその対象となる情報の種類との対応関係を概観することができる図表,具体的な事例を用いた、適切な管理体制を構築するための導入手順例などが示されています。
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営業秘密の管理態勢に関する裁判例を見ますと、営業秘密として不正競争防止法上の保護を受けるための要件(秘密管理性)として、①アクセス制限が存在すること,及び,②秘密として客観的に認識可能性のあること,が必要とされています。ただし,裁判例で考慮されている具体的な管理方法がすべて実施される必要があるわけではなく,事業規模,業種,提供製品・役務の市場環境,最終需要者の市場動向,情報の性質,侵害態様等も踏まえ、秘密管理の合理性を総合的に判断される傾向にあるようですので,各事業者において,営業秘密としての管理コストをも考慮し,具体的管理方法を適切に組み合わせて法的保護の可能性を高めることが望ましいといえます。